リモートワーク時代のアライシップ:オンラインでインクルーシブな職場を築くには
リモートワークが普及し、働き方が多様化する中で、職場におけるインクルージョン推進は新たな局面を迎えています。対面でのコミュニケーションが減少するオンライン環境において、意識的なアライシップの推進は、従業員一人ひとりが安心して貢献できる心理的安全性の高い職場環境を維持・発展させる上で極めて重要です。
リモートワーク環境におけるアライシップの重要性
物理的な距離があるリモートワーク環境では、意図的な努力なしには従業員間の非公式な繋がりや、職場で感じている細やかなニュアンスを捉えにくくなります。これにより、特定の属性を持つ従業員や、内向的な従業員が孤立しやすくなる可能性が指摘されています。
このような状況下でアライシップを推進することは、以下の点で重要となります。
- 心理的安全性の維持: オンラインでも、自分の意見や懸念を安心して表明できる環境を築くことは、心理的安全性の核となります。アライは、オンライン会議での発言機会の均等化や、チャットでの丁寧なコミュニケーションを促すことで、この環境をサポートします。
- エンゲージメントの向上: 孤立を防ぎ、チームの一員としての帰属意識を高めることは、リモートワークにおけるエンゲージメント向上に不可欠です。アライによる積極的な声かけや、インクルーシブな非公式な場(バーチャルランチなど)の提案は、従業員の繋がりを強化します。
- 多様な視点の尊重: 対面時よりも非言語情報が伝わりにくいオンライン環境では、多様な視点や背景を持つ従業員の意見が埋もれてしまうリスクがあります。アライは、意識的に異なる視点に耳を傾け、誰もが発言しやすい雰囲気を創出することで、多様な意見が組織の意思決定に反映されるよう促します。
リモート環境での具体的なアライ行動
リモートワーク環境におけるアライ行動は、オンラインコミュニケーションの特性を踏まえる必要があります。
オンライン会議での配慮
- 発言機会の均等化: 特定の人が話しすぎないよう、あるいは発言をためらっている人がいないか注意し、「〜さんの意見も聞いてみましょうか?」のように意識的に発言を促します。
- 非言語情報の補足: オンラインでは表情やジェスチャーが伝わりにくいため、会議の冒頭でアイスブレイクを設ける、チャットで補足説明を行うなど、コミュニケーションの円滑化を図ります。
- 会議ツールの活用: 挙手機能やチャット機能を活用し、声に出すのが苦手な人でも参加しやすい方法を提供します。
チャットやメールでのコミュニケーション
- トーンと絵文字の配慮: テキストのみのコミュニケーションは誤解を生みやすいため、丁寧な言葉遣いを心がけ、必要に応じて絵文字などを活用して意図を明確に伝えます(ただし、相手や状況に合わせて適切に)。
- 迅速かつ丁寧なレスポンス: 特に非同期コミュニケーションでは、相手が情報を受け取ったか不安になりがちです。可能な範囲で迅速に返信するか、「後ほど確認します」といった中間レスポンスを心がけます。
- ハラスメントや攻撃的な表現への対応: オンラインチャットでもハラスメントや攻撃的な表現が発生する可能性があります。目撃した場合は、傍観せず、適切なチャネルを通じて報告するなどの対応を検討します。
非公式な繋がりの促進
- 意図的な場作り: バーチャルランチ、オンラインコーヒーブレイクなど、業務以外の雑談や交流を目的とした場を企画・参加します。
- 参加しやすい雰囲気: 参加が任意であることを明確にし、短時間でも参加できる、カメラオフでもOKとするなど、多様な参加スタイルを許容します。
人事部門ができること
人事部門は、リモートワーク環境におけるアライシップ推進のための基盤を整備する役割を担います。
- オンラインアライシップに関する研修の実施: リモート環境特有の課題や具体的なアライ行動に焦点を当てた研修を提供します。オンライン会議でのファシリテーションスキル、オンラインコミュニケーションにおけるバイアス、マイクロアグレッションへの対応方法などを盛り込むことが考えられます。
- ガイドラインやベストプラクティスの策定・共有: オンラインコミュニケーションに関するガイドライン(例:チャットの利用ルール、オンライン会議のエチケット)を策定し、全従業員に共有します。
- コミュニケーションツールの整備と活用支援: リモートワークに適したコミュニケーションツール(ビデオ会議システム、チャットツール、コラボレーションツールなど)を整備し、その効果的な利用方法に関する情報提供やトレーニングを行います。
- 心理的安全性に関するサーベイやフィードバック収集: リモートワーク環境下での心理的安全性に関する従業員サーベイを定期的に実施し、現状を把握します。また、匿名でのフィードバック窓口を設置するなど、従業員の懸念を収集する仕組みを構築します。
- リモートワークに関する制度・施策との連携: フレックスタイム制度、サテライトオフィス利用、育児・介護中の従業員への配慮など、リモートワークに関連する他の人事制度や施策とアライシップ推進を連携させ、より包括的なサポート体制を構築します。
効果測定と改善
リモートワークにおけるアライシップ推進の効果は、定量・定性の両面から測定することが望ましいです。
- 定量的指標:
- 従業員エンゲージメントサーベイにおける「心理的安全性」「帰属意識」「コミュニケーション満足度」に関するスコアの変化
- リモートワークに関する従業員満足度
- チーム間のコミュニケーション量(チャット数、会議時間など。質も考慮する必要あり)
- 従業員の定着率(特にリモートワークを主に実施している層)
- 定性的指標:
- 従業員へのヒアリングやフォーカスグループによる意見収集
- アライシップに関する具体的なエピソードや成功事例の収集
- ハラスメントや孤立に関する相談件数の推移
これらの測定結果を分析し、施策の改善に繋げるサイクルを構築することが重要です。
まとめ
リモートワークは、従業員に柔軟な働き方を提供する一方で、インクルージョンや心理的安全性の維持において新たな課題をもたらしています。この課題に対応するためには、従業員一人ひとりがアライとして意識的に行動し、オンライン環境で積極的にインクルーシブな関係性を築くことが不可欠です。
人事部門は、研修、ガイドライン策定、ツール提供、そして効果測定を通じて、リモートワーク環境でのアライシップ推進を組織全体でサポートしていくことが求められます。これにより、物理的な距離を超え、すべての従業員が尊重され、その能力を最大限に発揮できるインクルーシブな職場文化を築くことができるでしょう。