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心理的安全性を高めるアライシップ推進の成果を測る:人事担当者のための具体的な指標と手法

Tags: アライシップ, 心理的安全性, 効果測定, DE&I, 人事戦略

アライシップ推進と心理的安全性測定の重要性

職場の心理的安全性は、従業員が率直に意見を述べたり、懸念を表明したり、あるいは失敗を恐れずに挑戦できると感じられる環境を指します。この心理的安全性が高い組織では、コミュニケーションが活性化し、問題が早期に発見され、イノベーションが生まれやすくなることが研究によって示されています。

インクルーシブな職場文化を醸成するためのアライシップ推進は、心理的安全性の向上に大きく寄与します。アライの存在は、マイノリティや様々なバックグラウンドを持つ従業員が孤立せず、安心して働くための重要な支えとなります。しかし、アライシップ推進が実際にどの程度心理的安全性の向上に貢献しているのかを把握し、その効果を経営層や従業員に示すためには、具体的な測定が不可欠です。

本記事では、アライシップ推進が心理的安全性を高めるメカニズムを整理し、その成果を人事担当者がどのように測定できるか、具体的な指標と手法について解説します。

アライシップが心理的安全性を育むメカニズム

心理的安全性は、特に以下の4つの段階を経て深まると言われます(ティモシー・クラーク提唱の4段階モデルを参照)。

  1. インクルージョンの安全性 (Inclusion Safety): 組織に属していると感じられること。
  2. 学習の安全性 (Learner Safety): 質問したり、フィードファーバックを求めたり、実験したり、失敗したりできると感じられること。
  3. 貢献の安全性 (Contributor Safety): 自分のスキルを活かして貢献できると感じられること。
  4. 異議申し立ての安全性 (Challenger Safety): 現状に異議を唱えたり、改善提案をしたりできると感じられること。

アライシップは、これらの各段階において心理的安全性を高める役割を果たします。例えば、特定のグループに対する無意識の偏見に気づき、それを是正する行動をとるアライは、「インクルージョンの安全性」を高めます。オープンなコミュニケーションを促し、異なる視点からの質問を歓迎するアライは、「学習の安全性」を支援します。発言の機会が少ないメンバーの意見を引き出し、貢献を正当に評価するアライは、「貢献の安全性」を高めます。そして、問題提起や現状への疑問を建設的に受け止めるアライは、「異議申し立ての安全性」を促進します。

心理的安全性の測定方法とアライシップとの関連付け

心理的安全性の測定には、主に定量的手法と定性的手法があります。アライシップ推進の成果として測定する場合、これらの手法を組み合わせて活用することが有効です。

定量的測定

1. 従業員アンケート調査: 最も一般的な方法であり、心理的安全性の度合いを数値化するのに適しています。特定の設問群を用いて測定します。

これらの設問に対し、「全くそう思わない」から「非常にそう思う」までの段階的なスケール(例: 5段階リッカート尺度)で回答を得ます。部署別、チーム別、属性別(可能な範囲で個人が特定されないよう配慮が必要)に集計・分析することで、心理的安全性の高い/低い箇所や、特定のグループ間のギャップを把握できます。

2. 既存の従業員意識調査の活用: エンゲージメントサーベイやコンプライアンス意識調査などに、心理的安全性やインクルージョンに関連する設問が含まれていないか確認します。アライシップ研修の実施前後で比較分析するなど、既存データを活用することで効率的に測定を行うことができます。

3. 間接的な指標: 心理的安全性の低さが影響する可能性のある間接的なデータを活用することも有効です。

定性的測定

定性的な手法は、数値だけでは捉えきれない従業員の感情、具体的な経験、背景にある理由などを深く理解するのに役立ちます。

1. フォーカスグループインタビュー (FGI): 多様なバックグラウンドを持つ少人数のグループに対し、モデレーターが心理的安全性やアライシップに関するテーマで議論を促します。率直な意見交換を通じて、潜在的な課題や改善のヒントを得ることができます。アライシップに関する具体的な経験談や、アライの行動がどのように心理的安全性の向上に繋がったかの事例収集にも有効です。

2. 1対1の面談: マネージャーや人事担当者による従業員との定期的な面談、またはカジュアルな対話の中で、心理的安全性に関するサインを観察したり、直接的に感じていることを尋ねたりします。信頼関係に基づいた対話は、深い洞察をもたらします。

3. オープンなフィードバック制度: 匿名または記名で、職場環境に関する意見や提案、懸念などを自由に投稿できる仕組みを設けます。アライシップに関連する具体的な要望や、心理的安全性を阻害する要因に関する情報が得られることがあります。

測定結果をアライシップ推進に活かすサイクル

心理安全性の測定は、一度行えば完了するものではありません。以下のサイクルで継続的に実施し、アライシップ推進の改善に繋げることが重要です。

  1. 計画 (Plan): 測定の目的(例: 現在の心理的安全性の baseline を把握する、アライシップ研修の効果を測るなど)を明確にし、適切な測定方法(定量・定性)、対象者、スケジュールを計画します。アライシップ施策と連動させることが重要です。
  2. 実施 (Do): 計画に基づき、アンケート調査やインタビューなどを実施します。従業員に対し、測定の目的と結果の活用方法について丁寧に説明し、協力を仰ぎます。
  3. 分析 (Check): 収集したデータを多角的に分析します。全体傾向に加え、部署別、チーム別、可能な範囲での属性別、勤続年数別などの切り口で分析し、心理的安全性が特に低い領域や、アライシップ推進が効果を発揮している点、あるいは不足している点を特定します。定性データと定量データを照らし合わせることで、より深い理解が得られます。
  4. 改善 (Act): 分析結果に基づき、具体的な改善策を立案・実行します。例えば、特定のチームで心理的安全性が低い場合、その原因を探り、チームリーダー向けのアライシップ研修や、コミュニケーション改善のためのワークショップなどを実施します。アライシップに関する好事例が見られた場合は、それを組織全体に共有し、横展開を図ります。

測定結果は、単に数値を報告するだけでなく、それがアライシップ推進の取り組みとどのように関連しているのかを明確に示し、経営層や従業員にフィードバックすることが重要です。これにより、アライシップ推進の意義を組織全体で再認識し、さらなる行動変容を促すことができます。

まとめ

アライシップは、職場の心理的安全性を高め、すべての従業員が能力を最大限に発揮できるインクルーシブな環境を築く上で極めて重要な要素です。このアライシップ推進の効果を具体的なデータに基づいて測定し、可視化することは、施策の有効性を検証し、改善点を特定し、経営層のコミットメントを維持するために不可欠です。

従業員アンケートやインタビューといった測定手法を適切に活用し、得られた結果をアライシップ推進の計画・実行・評価サイクルに組み込むことで、より効果的なインクルーシブな職場文化構築を実現できるでしょう。測定はゴールではなく、継続的な改善に向けた重要な一歩となります。