雇用形態を超えたインクルージョン:多様な働き方へのアライシップ実践ガイド
近年、労働市場の柔軟化に伴い、企業における雇用形態は多様化しています。正社員に加え、契約社員、パートタイム、派遣社員、業務委託など、様々な形で企業活動を支える人々が増加しています。このような多様な働き方を受け入れる中で、組織全体のインクルージョンを推進するためには、雇用形態に関わらないアライシップの考え方が不可欠です。
人事部門としては、全従業員が能力を最大限に発揮し、安心して働ける環境を整備する責任があります。しかし、雇用形態の違いが、無意識のうちに従業員間の壁を生み、インクルージョンの障壁となる場合があります。本稿では、雇用形態を超えたアライシップ推進の重要性と、人事部門が実践すべき具体的なアプローチについて解説します。
多様な雇用形態の従業員が直面しやすいインクルージョンの障壁
多様な雇用形態で働く従業員は、しばしば特有の課題に直面することがあります。これらは、組織内での心理的な疎外感やキャリア形成の機会不均等につながる可能性があります。
- 情報格差: 社内コミュニケーションや重要な情報共有の仕組みが、正社員を中心に設計されている場合、他の雇用形態の従業員に必要な情報が伝わりにくくなることがあります。
- 機会不均等: 研修プログラム、キャリアアップの機会、社内プロジェクトへの参加などが、雇用形態によって制限されることがあります。
- 意見表明の難しさ: 組織文化や雇用契約の違いから、自身の意見や懸念を自由に表明しにくいと感じることがあります。
- 帰属意識の低下: 正社員との待遇や立場の違いを感じることで、組織への帰属意識が醸成されにくい場合があります。
- 無意識のバイアス: 雇用形態に対する固定観念や偏見が、評価やコミュニケーションに影響を及ぼす可能性があります。
これらの障壁は、従業員のモチベーション低下や離職につながるだけでなく、組織全体の生産性やイノベーションを阻害する要因ともなり得ます。
人事部門が推進すべきアライシップ戦略
雇用形態を超えたインクルージョンを促進するためには、人事部門が主導的にアライシップ推進の取り組みを計画・実行することが重要です。以下に、具体的な戦略と施策の例を挙げます。
1. 意識啓発と教育
全従業員に対し、雇用形態の多様性とその背景にある社会的な文脈、そして雇用形態による無意識のバイアスについて理解を深める研修を実施します。アライシップの基本的な考え方を伝え、雇用形態に関わらず互いを尊重し、サポートし合う行動の重要性を啓発します。
- 実施例:
- 雇用形態の多様性に関するeラーニングプログラム導入
- 無意識のバイアス研修に、雇用形態に関する項目を追加
- アライシップ研修において、多様な働き方に関する具体的な事例を紹介
2. 公平な情報共有とコミュニケーションチャネルの整備
雇用形態に関わらず、社内の重要な情報やニュースにアクセスできる仕組みを構築します。また、全ての従業員が安心して意見や懸念を表明できるコミュニケーションチャネルを整備します。
- 実施例:
- 全従業員がアクセスできる社内ポータルサイトや情報共有ツールの導入・活用徹底
- 雇用形態別ではなく、部門別やプロジェクト別など、業務に基づいたコミュニケーショングループの設置
- 匿名でも意見提出が可能な目安箱やサーベイツールの導入
- 定期的な全従業員向けミーティングの開催(オンライン含む)
3. 機会均等の促進
研修機会、キャリア開発プログラム、社内プロジェクトへの参加など、従業員の成長や活躍につながる機会を、可能な限り雇用形態に関わらず提供します。
- 実施例:
- 必須研修以外の選択研修への参加資格を、雇用形態不問とする
- 社内公募制度において、応募資格を雇用形態で限定しない基準に見直す
- 期間限定のプロジェクトチームへの参加を、多様な雇用形態の従業員に呼びかける
4. マネージャーのアライシップ育成
多様な雇用形態の部下を持つマネージャーに対し、それぞれの働き方やキャリア志向を理解し、適切なサポートを行うための研修を実施します。個別のニーズに応じた目標設定やフィードバックの方法、公正な評価の実践などを強化します。
- 実施例:
- 多様な雇用形態の部下を持つマネージャー向け個別コーチング
- インクルーシブ・リーダーシップ研修に、多様な雇用形態のマネジメントに関する内容を含める
- マネージャー同士がベストプラクティスを共有するラウンドテーブルの開催
5. 制度・ポリシーの見直し
企業の制度やポリシーが、特定の雇用形態の従業員にとって不利益になっていないか定期的に見直します。福利厚生、評価制度、報酬体系などにおいて、公平性と透明性を高めるための改善を行います。
- 実施例:
- 福利厚生制度において、雇用形態による利用制限を緩和・撤廃できないか検討
- パフォーマンス評価基準に、雇用形態に依存しない要素を組み込む
- 全従業員対象のエンゲージメントサーベイに、雇用形態に関する設問を追加し、現状を把握する
まとめ
雇用形態の多様化は、企業にとって新たな人材獲得や柔軟な組織運営を可能にする一方で、インクルージョン推進における新たな課題も生じさせています。人事部門が主導し、全従業員を対象としたアライシップの考え方を浸透させ、雇用形態による壁をなくす具体的な施策を実行していくことが、真にインクルーシブで、全ての従業員が最大限の能力を発揮できる職場環境の実現につながります。
これは一度行えば完了する取り組みではなく、継続的な対話、見直し、改善が必要となるプロセスです。人事部門が率先して多様な働き方への理解を深め、アライシップの実践を促すことで、組織全体のエンゲージメント向上、優秀な人材の確保と定着、そして企業価値の向上に貢献できると考えられます。